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国立公園革命

「日本初行政主導によるエコツーリズム」

 定期船に揺られること25時間半。東京・竹芝桟橋から南南東へ約1000キロの太平洋上に「東洋のガラパコス」と呼ばれる島々がある。父島・母島・聟島・硫黄の4列島からなる小笠原諸島のことである。ダイビング、ホエールウォッチングの世界的なメッカとしても有名なこの島々は、約5000万年前の火山活動で誕生して以来、一度も陸続きになったことがない日本で唯一の海洋島。1830年までは無人島だった。
 そのため固有の動植物が独自の進化を遂げ、世界的にも貴重な自然的価値を有している。「東洋のガラパゴス」と呼ばれる所以である。
 2003年(平成15年)の4月からこの小笠原で、日本初の行政主導によるエコツーリズムが実施される。エコツーリズムとは自然保護と観光振興の両立を図る手法のことだ。
 具体的には、都が認定するガイドの同伴を義務づけることなどを始め、人数や期間などの制限をした上で観光客の立ち入りを認めるというもの。指定地域の第一号は、地質学的に珍しい「沈水カルスト地形」を有する父島の南島と、固有種が数多く自生する母島の石門地区の二箇所だ。今回石原がこのような制度を導入した背景には、国立公園の保護に対する国の怠慢がある。

 南島の中央部「沈水カルスト地形」

 石灰質の土地が雨などで浸食されてできたカルスト地 形と地殻変動で再び沈降してできた沈水カルスト地形 が広がっている。世界でイタリアとここにしかない珍しい 景観。

 母島の石門地区

 隆起カルスト地形という石灰岩特有の凹凸のある地形 が多く見られる。石灰岩性の土質とも相まって、多くの 固有植物の限られた生育地となっていてセキモンノキ、 セキモンウライソウなどの唯一の生育地でもある。


「有名無実化している国立公園」

 小笠原諸島はそのほとんどが国立公園に指定されている。国立公園とは、わが国を代表する傑出した自然の景勝地の保護と共に、その利用促進のために指定されている地域のことだ。しかしながら国立公園の監督者である国はその保護のために何もしていないのが現状である。


削られたラピエの写真

むき出しになった赤土

 石原がエコツーリズムの導入を決めた南島では、観光客によって「島の植物が踏みしだかれて赤土がむき出しになる」「ラピエと呼ばれる石灰質の奇岩が削られてしまう」といった悪影響が出てきている。さらに人に付着して運ばれた種により移入植物の分布も広がり始めている。
 このような自然破壊があるにもかかわらず、国は何の対策も施さなかった。国立公園を始めとする自然公園は「自然公園法」という法律に基づいて指定されているが、法律には立ち入り人数の規制やガイドの公的認定などは盛り込まれていないため、南島の保全は村の観光事業者の自主規制が頼みだった。
 村では2001年(平成13年度)の7月から「入島者数は1日100人」「上陸時間は2時間以内」といった南島保全のための自主ルールの運用を始めているが、あくまでも自主ルールのため問題は多い。筆者は実際に小笠原を訪れてみたが、実態は骨抜きにされているといっていいものであった。


東方から南島中央部を望む

「自主ルールのおそるべき実態」

 南島は、父島の南西約1キロに浮かぶ無人島である。そのため上陸するには観光業者のツアーに申し込まなければならない。私はルールの書かれたメモを片手にボートに乗り込んだ。ルールでは「入島前に衣服や靴に付いた種子、泥を落とす」とされているが、そのような光景は見られない。私はそのことを尋ねたが、サングラスをした若いガイドは「まあ今日は時間もないので」と言ったきり黙ってしまった。
 ボートの先端をラピエと呼ばれる石灰質の奇岩に着けて上陸。特定の場所から入島するためにその先端は削られ白く変色している。ラピエは海底から隆起した石灰岩に何千年も雨が降り注いだことによってできたいわば「自然の彫刻」とも言える。そういった貴重な自然に対する啓発もガイドからは一切なされなかった。
 歩行ルートを示す赤い杭が打たれた丘を登る。一面に広がる緑の芝に剥き出しになった赤土が痛々しく点在している。
「この杭と杭の間を歩いてください」


植生回復事業の一部

 ガイドはそう告げると先を急いだ。ほとんどの観光客は南島の美しさに目を奪われ、途中からルートを守るものはいなくなった。ルートの脇には東京都が植生回復のために地面にネットをかぶせているが、その上を平気で歩くものもいた。
 南島の中央に位置する扇池が視界に入ってくると一同歓声を上げた。私も眼前に広がる不思議な光景に声をあげずにおれなかったが、ガイドがしきりに「すごいだろ。すごいだろ」とまるで自分のもののように得意がっている姿が印象的だった。
 帰り際、私はガイドに、自主ルールにある入島制限が実際に機能しているのか尋ねてみた。
「実際にはあまり守られていないですね。でも今日は早い時間だからみなさん運がいいですよ。午後になると大勢きますからね。」ガイドは笑顔でそう答えた。毎日このようなことが起こっていないことを願いたいものである。

エコツーリズムのルール」

 南島は国の土地である。にもかかわらず観光業者はその土地を自分たちのものであるかのように扱っている。それに対して監督者である国は何の対策も施さない。村では自主ルールを定めたが、その運用には疑問が残る。自然を愛する石原がそのような状況を見過ごせるはずはなかった。
 しかし小笠原には観光、公共工事といったものの他には産業がない。自然保護だけに極端に重きをおくことは、唯一の産業とも呼べる観光の妨げにもなる。石原は観光を重要な産業として捉えており、世界に冠たる東京の観光資源である小笠原諸島を有効に活用するべきだとも考えていた。
 そこで冒頭書き記したように石原は自然保護と観光振興の両立を図るために、行政主導のエコツーリズム導入に踏み切ったのである。
 以下はその詳細なルールである。

エコツーリズムのルール

T共通ルール

 1.東京都自然ガイドの指示に従う。
 2.東京都自然ガイドは、その身分を表示する腕章等を着用する。
 3.定められた経路以外を利用しない。
 4.植物、動物、木片類、石など自然に存在するものはそのままの状態にする。
 5.動物、植物、種子、昆虫などの移入種を持ち込まない。
 6.動物にえさを与えない。
 7.動物を驚かしたり、追い立てたりしない。
 8.岩石などに落書きをしない。
 9.ごみは捨てず、すべて持ち帰る。また、海に投棄しない。

U個別ルール
名称 南島 母島石門一帯
最大利用時間 2時間 設定なし
1日あたりの
最大利用者数
100人
(上陸1回当たり15人)
50人
(1回当たり5人)
制限事項 年3ヵ月間の入島禁止期間の設定
(当面、11月から翌年1月末日までとする。ただし、年末年始の8日間を除く。詳細な日程は年度毎に定める。
鍾乳洞は立ち入り禁止
ガイド一人が担当する利用者の人数上限 15人 5人

「国が自然公園法を改正」


協定書にサインをする石原知事と
宮澤小笠原村長

画像提供:東京都

 しかし今回のエコツーリズムの導入だけでは小笠原は保護できても、他県の国立公園の保護には結びつかない。石原はエコツーリズムの導入と並行して、国に自然保護法の改正を働きかけていた。結果、国は東京都の構想に追随して自然保護法を改正。
 改正後の法律では、利用可能人数の設定を始め、地方公共団体・地元民間団体等が土地所有者と協定を締結し、該当する土地を管理できるなど、より強い保護が唄われている。
 石原の環境に対する思いと、それを実現するための緻密な戦略が国を動かしたのである。そこには環境庁長官時代に国立公園の在り方に疑問を感じながらも、水俣問題など多くの案件に忙殺され、何もすることのできなかったという自責の念があったのではなかろうか。

 ただ環境保護の重要性や観光客の行動範囲を説くだけでは、自然保護としてだけの成功である。エコツーリズムはただの理念ではない。自然保護と観光の振興が両立してこそ意味があるのだ。そのためには観光客にとってお金を払ってまで参加したいと思わせるエコツアーを提供しなければならない。厳しい決まりがあるのにも関わらず、エコツーリズムの先進地であるガラパゴス諸島への来島者が絶えないのはそこで行われるエコツアーに参加することが面白く、かつためになるからである。
 小笠原への日本初行政主導によるエコツーリズムは既に導入されている。是非ともツアーに参加して小笠原の魅力と自然保護の重要性を体感して欲しい。

詳細はこちらから
「小笠原エコツーリズム」ホームページ
https://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/sizen/ogasawara/eco-kaishi/eco-tourism.htm


石原慎太郎公式ウェブサイト
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