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石原慎太郎エッセイ「日本よ」

2002年12月2日発売の産経新聞より転載 
産経新聞社HP http://www.sankei.co.jp/
「アジア製旅客機を」

 多くの日本人には最早記憶に遠いことだろうが、かつて中曽根政権時代に三菱重工が画期的な次期支援戦闘機FSXの計画を発表したことがある。その性能の特出した点は空中戦での宙返りの半径が世界の最先端のF15、F16のおよそ半分で、そう した高運動性のために独特のカナード(脇鰭)を備えている。もしそうした戦闘機が実現すると、いかなる空中戦ででも簡単に相手の後方にライド・オン出来て、まさに無敵である。ということでアメリカはそんな飛行機の登場を好まず、日本政府に圧力をかけてこの計画を思いとどまらせた。私がアメリカでは悪名の高い『NOと言える日本』を書いた所以の一つでもあった。

 アメリカは自動車ではどうやらあきらめたが、軍用機に限らず日本がその持てる能力を発揮して世界の航空機産業に参入してくることを絶対に好まない。故に陰に陽に圧力をかけ、日本側にも航空機に関する戦略が国家的にも欠けてい、財政的な杜撰さもあって、あのクラスでは高い性能を示していた戦後初の国産旅客機YS11も二百機たらずで生産が中止されてしまった。

 以来、かつては零戦を始め川西大艇、PS1(ちなみに世界の優秀な兵器を紹介するジェーン軍事年鑑に載っていた国産兵器はこれだけだ)等さまざまな名機を造り出していた日本の航空機産業は今ではボーイングやカナダのボンバルディエやブラジルのエンブセエルといった外国の航空機製造会社のパーツメーカーに甘んじている。 ちなみにボーイングのジャンボにせよ777にせよその主要部分は日本製で、高性能の軍用ジェット機も含めその頭脳部分の操縦席のダッシュボードはセラミック部分も計器の中身の液晶体もすべて日本製である。ボーイングが新機種を造った時、日本側の受け持った部分が精巧に出来上がり過ぎていてアメリカ側が造った部分と旨く繋が らなかったという挿話まであるのに、日本は未だに純日本製の飛行機を造り切れずにいる。日本はこの時代に、まさに時代的な技術を持ちながら、それを一向に発揮することが出来ない。

 私が東京から提唱して実現したアジアの大都市のネットワークは今年すでにデリーで二度目の会議を開いたが、その所以の一つは、可能性を持つ大都市が国をもリード し協力体制を作ってアジア産の中小型のジェット旅客機を造ろうという魂胆だ。アメ リカはクリントン時代に、相手がシナならば国土の広さもあり用途も多かろうから中小型のジェット機を造らしてもいいといい出したことがある。当然アメリカが資本的、 技術的に介入してその首を抑えてかかろうという魂胆だったろうが、新しいブッシュ政権の対中国観は前者とは違っているからその可能性は薄らいだが、その論でいけば、 日本でも需要の高いYS11の代替機は、発展性の高い東アジア地域においてもシナ と同じに違いない。

 何も東京からデリーまで飛ぶ飛行機というのではなく、それぞれの国内において百人を越す程度の客を頻繁に運ぶ旅客機の需要は東アジアの国々の経済の発展ぶりから見てきわめて高い。我が国においても同じことで、狭い国内を飛び回るのに大型の旅客機を使っているような国は日本だけで、エアバス以下の機材でもこと足りるし、その方が経済効率の良い国内路線が沢山ある。

 このプロジェクトに最初から賛同してきたのはインド、マレーシア、インドネシア、 台湾といった顔触れで、それぞれが航空機の生産のためのかなりの可能性を保持している。特にインドはすでに純自国製の多目的ジェット戦闘機を生産しており、私が先月視察したバンガロール市にあるHAL社の施設はきわめて充実したものだった。

 これらの可能性を日本が中心になって束ねれば、YS11を後続する新しい中小型 のジェット旅客機の製造は容易に違いない。それぞれの国が持ち合わせている技術能力を持ち合って地勢学的にも需要の高いサイズの旅客機を共同製作すれば、日本一国 で行うよりも幅広い販路の開拓獲得ははるかに容易なはずだ。

 かつてECがエアバスを育てたようにアジアはアジアの特性に応じて、いわば自家製の旅客機を自ら造り自らに提供したらいい。エアバス300がボーイングの767 と殆ど同形なのは、旅客機という範疇ならば新しい飛行機の開発はたかが知れているということでもある。

 経済産業省は最近ようやく航空機産業への乗り出しを考え出したようだが、すでに盲点ともいえた中小型旅客機の開発に他の外国が乗り出しそうだと聞いただけで臆し てしまい、その一つ下の、せいぜいが三、四十人乗りのクラスを狙っているようだが、 そうしたタイプの旅客機の販路は限られたものでしかない。

 競争を恐れずに乗り出してこそ新しい工夫や技術の開発もあり得るし新しい自信も 獲得されように。そうした際に必要なことは、各省をまたいでの国の協力とそれを束ねる政治家の見識とリーダーシップに他ならない。

 アジアのマークをつけたアジアの連帯協力のシンボルとして新しいアジア製の旅客機が世界を飛び回ることでアジアの人々がより強い自負と自信を獲得することこそが、 さらなるアジアの発展に繋がっていくに違いあるまい。

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