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「アメリカは勝てまい」 |
先月ワシントンとニューヨークに滞在中にCSIS(戦略国際問題研究所)とFPA(外交政策協会)に請われて行ったスピーチでまたしても物議をかもしたようだ。問題の要点は、アメリカはもし中国と戦争をするようなことになったら絶対に勝てまいということだ。この発言は誇り高き?アメリカ人にとっては由々しきことだろうが、実ははるかそれ以上に日米安保を盲信している日本人にとって重大な、というより国家存在の安危に関わる問題なのだ。さる十月の本欄にも記したが、最近中国が行った大陸間弾道弾実験の成功は、中国とアメリカの将来の軍事対立において強大なオプションを中国に与えたことになる。
アメリカとの対立の中で中国が保有するICBMをいきなり発射する愚を行う訳はなかろうが、東アジアと西太平洋における軍事的覇権を確立しようとしている中国にとって、その成就のために最も目障りな日米安保体制の破壊のためにある切っ掛けを捉えて彼等が行い得る最も有効な直接行動とは、アメリカのアジアにおける軍事的ヘゲモニーにとって不可欠な沖縄の戦略基地を核兵器によって一気にほふることに違いない。
それを受けてアメリカが、日本の防衛とアメリカの覇権のために核使用をも含めて大掛かりな報復の挙に出るかどうかは極めて疑わしい。その瞬間、中国が開発したICBMの存在が巨きな戦略的抑止力として効いてくる。
前にも記した通り毛沢東が対アメリカ戦争を想定してポンピドーに明言した、千万単位の人命の損失を決して恐れはしないという、市民社会を経験したことのない中国伝統の、人命に関する我々とは百八十度違う野蛮な価値観が発露してくる限り、アメリカの市民社会の世論は中国との全面戦争を許容する訳がない。現にイラクにおける二千人に達したアメリカ側の犠牲者によってアメリカでは厭戦機運が増幅されつつある。
しかし戦争なるものの実質はしょせん生命の消耗以外の何ものでもありはしない。その主たる対象は地上軍となる。そしてアメリカの三軍においてもっとも劣悪な存在が陸軍であるという事実がそれを逆証してもいる。アメリカの最も優秀な地上戦力は陸軍とは別の第四軍たる海兵隊だが、その数は極めて限られている。
最近NHKによる、正規の陸軍に代わってイラクに派遣されたアメリカのある州兵のルポを目にしたが、その老齢と未熟な実態には驚かされた。丁度日本の市民ボランティアによる消防団が大火事に派遣されたような体たらくで、結果はむべなるかなと思わされた。
思いなおせばアメリカは太平洋戦争以後の主な戦争で勝利したことはない。朝鮮戦争は痛み分け、ベトナム戦争は実質敗戦でしかないし、人命の損失を恐れる限りイラクでの膠着(こうちゃく)の行く末にはなんの保証もありはしまい。朝鮮戦争できりなく押し寄せてくる中国軍の兵隊がほとんど丸腰のままだったという、迎え撃つ側にとっても悪夢に似た実態の暗示するものは、例え次の戦争が核を伴ったものだろうと彼我の実質はかつてと全く変わらないということだ。端的にいって中国はたとえ上海を丸ごと失っても動じることはないだろう。
アメリカがどの段階でそれを知るにしても、人命尊重という市民社会の当然な世論希求の前にアメリカは手を引き、その結果日本は見捨てられ孤立していくだろう。それは決して皮肉とか悪意の予想ではなしに、現に日米安保条約の案文がそれを証している。現にそれを盾どって、かつて沖縄で小学生の女子が海兵隊員によって輪姦された事件と同時に尖閣列島が中国人たちによって領土侵犯された折でも、アメリカ大使はこの上紛争が拡大しようと日米安保の発動はないと明言していた。アメリカの政権が変わってその論は一応否定されたが、それは政権次第のことでしかないし、事態の深刻さによってさらにわかったことではない。
今日いろいろの事例で憶測される中国の中央政府と中国軍部の軋轢は、かつて開戦前の日本陸軍の政府からの乖離に似た軍部の冒険主義を予測させる。それが何をきっかけに大きな引き金に繋がるかは未だ想像に難いが、しかしなお今日のアメリカの軍事における本質的なひ弱さはイラクの実態において証明された観がある。
アメリカ自身それを知り対中国戦略を考えなおすべきである。それは彼等の軍事拡張を支えている中国経済の膨張も実は本質的な弱点を多く抱えており、その分析把握を踏まえて経済的に彼等を封じこめていく戦略展開を構えるべきに違いない。そのための手立てや力、資金力にせよ技術力にせよ日本もアメリカもともに優に保有しているのだから。
アメリカと中国のアジアにおける軍事的ヘゲモニーが、いずれの時点で何をきっかけに激しい衝突を起こすかは未だに不確定だが、その前に日本としては盲信しているアメリカの軍事の本質的ひ弱さを十分心得、いざという時自ら一人ででも自らを守り抜くための種々準備に心がけるべきだろう。そしてそれに平行して経済的に相手を封じこめる戦略を日本から提案してでも共に備えるべきに違いない。
繰り返していうが、アメリカは中国とまともに戦争をしたら決して勝てることはない。またそんな戦さを彼等が、日本のために展開する訳もありはしまい。

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