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石原慎太郎エッセイ「日本よ」

2005年2月7日発売の産経新聞より転載 
産経新聞社HP http://www.sankei.co.jp/
「東京は自らの手で国土を守る」

 昨年十二月半ばごろ総務省から突然わずか四行の連絡文が都に届いた。中国の海洋調査船「科学一号」の東京都と沖縄県水域に挟まる経済水域での調査について都の意見を聞かせよ、ということだが、中国からの申し出をうけた外務省の意向を取り次いだものにしても、その判断の基準となるべき相手のこうした調査の実態については何の説明もない。

 中国船は過去にも沖縄の尖閣諸島周辺の日本の経済水域にもしきりに出没し勝手な調査を行ってきている。国連海洋法条約では246条に「排他的経済水域および大陸棚における海洋の科学的調査は、沿岸国の同意を得て実施する」とあり、かつ実施した調査結果の沿岸国への報告を義務づけている。しかし中国が今までその義務を履行したためしは全くない。どころか彼等は尖閣諸島はもともと中国の領土だなどと主張し出し、同じようにベトナムとフィリピンの西沙、南沙諸島の領有も主張し、それらのある島々には漁業用とか称して施設の構築を一方的に強行してきた。

 そして近年にいたって日本の領土たる沖ノ鳥島を、あんなものはただの岩礁に過ぎず日本の領土とは認めないといい放ち、周辺での調査も一方的に行っている。でいながら、政府がこうした姿勢の中国の申し出を何の条件もつけずただ右から左に関係自治体に取り次いで意見を求めるのは、自治体を素人扱いしかつ国の責任を半ば放棄し、事後の責任を自治体に押しつけかねぬ姿勢といわざるを得まい。故にも都はこの調査に反対との意思を総務省経由で外務省に伝えた。

 ともかくも昨年一年に限っても日本側への事前通報なしの中国調査船による違法調査活動は三十四件に上り、年ごとに増加している。広大な領土を持ちながら埋蔵資源の極めて少ない中国が海底資源の開発に意欲を持ち、併せて太平洋での軍事的ヘゲモニーに野心を抱いているのは自明のことで、繰り返される領海への侵犯はやがては日本経済を支えるシーレーンの危機にもかかわってくる。

 戦略を欠いたこの国の政治はこうした問題にすべて後手後手でしかない。関係する役所どころか、そうした役人におぶさるしかない政治家にも物事を複合的にとらえる能力が枯渇していて、いつもことが起こってからの右往左往でしかない。

 かつて青嵐会が引き金を引き、共鳴した有志によって尖閣諸島の魚釣島に造られた立派な灯台が、外務省の弱腰で、かつて来日したトウ小平がぬけぬけと「尖閣問題は後世の知恵のある世代に解決をまかせよう」などという棚上げ論に同調してしまった結果、時期尚早とかでいまだに海図に正式に登録されないという現状だ。この事態にいたってもそれが国会で一向に議論もされないという実情は歯がゆい情けないを通りこして、あきれるしかない。

 ここにきて政府内部には沖ノ鳥島に人を住まわせる算段をすべきだという意見もあるやに聞くが、それならその前になぜ、かつては居住者もいた尖閣諸島に自衛隊などを配備する措置を講じようとしないのか。

 今回の相手側からの水域指定も、そこに至るに通過しなくてはならぬ沖ノ鳥島の経済水域は外しており、彼等のかねての主張の通り沖ノ鳥島の領土としての主権を認めぬ姿勢は明白だ。ちなみに、日本政府は十八年前には巨費を投じてあの環礁の中の岩島を風波から守るべく補強工事を行い、数十人の工事要員の宿泊設備も造成している。

 だから東京都もそれを受けて国に先んじて来年度予算に調査費を計上し、東京都の漁業組合の協力のもとに本格的な経済活動としての漁業活動を開始することにした。そのための作業船も建造の予定だし、当面他県の大型漁船を借り上げて魚礁の設置等の作業を開始する。周囲の海底の条件や島周辺の海象の厳しさからして定置網の設置は不可能かも知れないが、八丈島や沖縄の海で成功している魚礁の設置は可能だし、それに加えて佐賀大学の上原教授による、すでに特許も下り開発のための国家予算もついている画期的な発明、深海の水をくみ上げ水面の海水との三十度近い温度差を利用してアンモニアと水の混合体を作動流体の作用で蒸発気化させそのエネルギーでタービンを回し発電する新技術を活用し、島での発電による生活の安定と、深層水が多く含むプランクトンやミネラルを魚礁を設けた浅水域に放流し魚を呼び寄せ豊饒な漁場を造成していくつもりだ。

 この漁業活動はまず経済的採算を無視してでも行うべきこととも思うが、ここまでなめられきっている中国に貢いでいる膨大なODAの無駄に比べればはるかに意味があるはずである。それでもし日本自身が開発した新しい技術によって今まで不毛に近かったあの水域が環境を全く損なうことなく素晴らしい漁場に生まれかわるなら、世界に範を示すことにもなる。

 国は国家の威信と国土の防衛維持のために東京のプロジェクトに挙げての協力をすべきだと思うが、もし国の腰がひけたままなら、私は街頭に立って都民国民のカンパを要請し国民挙げての運動を展開するつもりでいる。

 「天は自ら助くる者をのみ助く」というこの世の公理を、我々は自らの財産である領土の確保のためにこそ実践しなくてはなるまい。

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