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「自由台湾の存在意義」 |
中国がらみの今後のアジアの趨勢(すうせい)を占うためにも我々はもう少し強い関心を、間近にせまった台湾の総統選挙に抱くべきに違いない。前々回の李登輝総統が再選された折の台湾で初めて、いや北京政府が台湾をあくまで中国の一部だと主張するのなら、中国有史以来初めての開かれた民主的選挙を北京がいかに恐れ嫌ってさまざまな妨害の挙に出たかはいまだ記憶に新しい。
あの時北京は軍事力を背景に強引に遂行したチベットの併合の再現を示唆するように、その覇権主義をあからさまにしての脅迫として大規模な軍事演習を台湾周辺で行い、それにかまけて台湾の高雄市沖と日本の与那国島沖それぞれの領海内二カ所に誤射と称してミサイルを撃ち込む計画を立てていたが、それをアメリカの情報機関に察知され、もし彼等が敢えてそれを行うならアメリカは台湾海峡内に原子力空母を二隻出動させて張り付けると通告されて計画を撤回せざるを得なかった。
中国に随分甘かったクリントン政権とはいえ、こうした姿勢の中国はアジアの近い将来にとって極めて危険不安定なる要因という認識を抱き、急遽、橋本総理をサンタモニカまで呼び出して日米安保の新しいガイドラインの作成となった。
しかし、今回の台湾の、アジア全体にとっても極めて重要な総統選挙に際して、陳水扁総統の提唱している、台湾と日本向けに配備されている中国のミサイル包囲網への拒否を問う国民投票を、アメリカの首脳が刺激的で好ましくないと声明して牽制(けんせい)するのは道理の通らぬ話だ。クリントン政権以来、中国の対日本、対台湾の姿勢の本質は変わっていないのだ。
大陸志向の台湾の野党はアメリカの声明を最大限に利用し、外省系の資本が大方を牛耳っている国内メディアを活用して、大陸のミサイル配備に対する国民投票による意思表示は台米関係をも悪化させるものだとしきりにキャンペーンしている。しかし、台湾の人々が自分達をターゲットにしているミサイル包囲網を好ましからざるものと判断することをアメリカが牽制するいわれは、結局クリントン政権と同じ経済利益をあてこんでのダブルスタンダードでしかありはしない。
軍事力を背景にした共産党の独裁が決して長期にわたり得るものではないことを歴史は明かしている。その一つの事例は北京政府の法輪功に対するヒステリックな弾圧である。実はかつてNPO制度の発足当時、東京在住の法輪功のメンバーからNPOとしての登録の申しこみが都庁にあった際、在日の中国大使館から陰に陽に、自民党の大物議員まで動員しての牽制があったものだった。
修養団体としての登録なら他から何をいってこようと登録認可はスムーズに行われたはずだったが、彼等の「法輪大法」なるものへの忠誠から、宗教と等質の理念団体ということになると他の問題派生の懸念もあって実現しなかったが、その後の状況下での判断では問題はないと思われる。しかし、当時の中国側の神経質ぶりにはいささか驚かされた。
考えてみればその訳は自明なことで、いかなる数、いかなる種のものであろうと、共産主義以外の理念によって結束する組織や集団が共産党独裁下の社会に自発的に台頭することは、共産主義以外の価値観の容認、跋扈(ばっこ)につながり、彼等の独裁の崩壊ともなりかねまい。それは「独裁」という政治メカニズムヘの本質的な浸食であり、蟻の一穴からの全面崩壊にもつながるはずである。
ということから思えば、一般国民にとって過酷な連なりでしかなかった中国の長い歴史が培った中国人の民族的DNAが、チャイノロジーの泰斗であった桑原寿二氏の優れた分析の通り徹底した政治不信であり、それ故の徹底した金銭営利主義である限り、共産党管理の下に行われている多くの企業の運営が維持している中国のチープレイバーの虚構は、もし欧米並みの労働組合が誕生すれば次第に崩壊していくに違いない。
現在の中国における工業地帯と農村との著しい経済格差の限りでは、貧農階級にとって都会での工業労働への就労は夢であり得たとしても、それがある平均値に達した時点で、労働条件に関する自由や人権といった価値観が持ち込まれ普遍化していけば、非人間的政治体制は崩れさり淘汰(とうた)されていくだろう。またそのための情報の供給に周囲の先進国はつとめるべきに違いない。
労働条件という働く人間の人生にとっての基本的要件についてその人間性非人間性についてよく知る台湾と、それをまだ知らされずにいる中国の関わりが、将来軍事的圧力で押し切られてしまい、選挙にせよ労働条件にせよ、国民の意思が自由に表明され得、それによって人生の在り方を自ら変えることのできる台湾の自由体制が大陸による吸収で消滅させられかねぬということは、自由台湾の悲劇にとどまらず、周辺のアジア国家群にとっても重要な影響を持ってくる。
自由台湾の存在は、先の国家反逆罪制定のための法律改正反対の五十万人デモで、圧倒的に北京の意向に反抗した香港の存在以上に中国の将来にとって、ひいてはアジア全体の安定にとって大きな鍵に他ならない。我々は自らのためにも、台湾の総統選挙に強い関心を抱くべきに違いない。

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