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石原慎太郎エッセイ「日本よ」

2003年8月4日発売の産経新聞より転載 
産経新聞社HP http://www.sankei.co.jp/
「昔遣唐使、今不法入国者」

 過日、不法入国不法滞在の外国人が猖獗する東京の池袋に多角的大手入れを行った際、現地を視察してみてさまざま感じるところがあった。この町には現在莫大な数の外国人が住みつき、その多くは不法入国、不法滞在者、そしてその過半が中国系だが、この町の特徴はその近くに彼らの安価な居住地域がある点だ。

 そのため、そこで生活する者たちのための必需品を備えて売る店が驚くほど多い。ついでに不法入国してきた彼ら中国系の同胞、その限りで正規に就業できぬ連中、つまり犯罪要員のために家に押し入って窃盗するために鍵をこじ開けるピッキングの道具をセットで売っていたりもする。

 中国人相手の本屋には驚くほど多種な本、新聞、雑誌、ビデオが並べられており、ある新聞などは発行部十万をこすという。それらのメディアにはさまざまな就職斡旋の広告が掲載されていて、中でも驚かされるのは探偵社の人員募集である。たとえ正式に入国していたとしても、彼ら外国人がこの日本でいったい何を探偵するのか。

 聞くところそのほとんどが犯罪パートナーとしての仕事であって、最近では同じ不法入国不法滞在している中国人の子弟を誘拐し、身の代金を奪おうとする事件まで起こっている。犯人たちと同じように不法滞在している相手だから日本の警察には通報しまいと高をくくっていたら、被害者の親の方は子供かわいさに警察に訴え出て一網打尽となった。

 日本語学校に通うと称してやってきた若者たちを犯罪の片棒に利用するのは茶飯のことで、商店でのかっぱらいの見張りは邦貨で五万円、高級自動車の盗み出しの見張りは十万円とかで彼らにしてみれば大層な実入りとなる。

 手口も荒っぽく、貴金属店や現金収入のある店の金庫を狙った押し入りはブルドーザーのような工事機材を盗んできてそれでいきなり店の壁を崩し、警報器が鳴り渡るのなど無視して、警備会社のスタッフが駆けつけても青龍刀などの凶器で威嚇して追い払い、警察が駆けつけてきた時にはもう姿を消している。

 略奪した品物は日本での故買にかけたりはせず香港や上海の特別ルートで簡単にさばかれてしまう。

 こうした実情について日本の政府が相手に抗議したこともないし、事情を知って向こうの政府が恐縮したという話を聞いたこともない。

 こうした実態を見て改めて思うことは、国際関係の中で認識されるもろもろの隔差こそが人間の交流の有無をいわさずに促進し、文明が刺激され文化もまた変化し向上もするという歴史の原理だ。

 今この日本と中国との間にある隔差の最たるものは経済、いい換えれば生活水準の違いであって、彼らの歴史が培った、いかなる政治をも信用しない中国人の極めて現実的なDNAはわが身の経済的状況の向上こそをほとんど絶対の目的とするが故にも、その隔差を踏まえて大挙日本に押し寄せてき、その願望をかなえるためには堂々と盗みもする。

 さらに大きな国家的規模の技術隔差に関しては、彼らの国家もまた、知的所有権など全く無視して堂々と盗みつづけている。チープレイバー(賃金の安い労働者)に憧れて進出していく日本をふくめた外国企業はいい鴨にされ、金に換算しきれぬ根幹的技術までを簡単に盗みとられているのが現況だ。

 かつて日本はシナ大陸との文化隔差に刺激され、それを摂取し自らを向上させるために多くのエリートを遣唐使遣隋使として送り、国家が調達して持たせた日本特産の砂金で門外不出のお経を写しとったりして、彼の地文化を甲斐々々しく吸収したものだった。司馬遼太郎氏のいうところでは、他国の進んだ文化を学び取るのに正当に金銭を払ってしたのは世界で日本人だけだそうな。

 それに比べると、彼我の立場を逆さに変えた今日の日本とシナとのかかわりは大層異なるとしかいいようない。しかしそれが経済隔差、生活の格差という切ない現実のもたらすものならば、今後の両国の親善のためにそれをどう改良すべきかを我々も本気で国家的に考えるべき時ではなかろうか。

 時間的空間的にこの世界が狭小になってきている今、すべての隔差についての情報は瞬く間に伝わり、人間のきりない欲望はそうしたギャップを埋めるために、法律をも含めてすべての障壁を乗り越えようとする。

 私たちはそろそろ大幅、本格的な移民政策を考えるべき時に来ていると思う。考えてみれば実は日本人のルーツはこの小さな日本列島の四方八方のあちこち、シナ、朝鮮、モンゴル、遠くは東アジア、さらには大洋州のメラネシアにまで及んでいる。日本人なる人種は決して単一の血筋で出来上がっているものではなくて、実は今日のアメリカ以上の合衆国なのである。日本という国土におけるオリジナルな民族とは、今は希少化してしまった北海道のアイヌの人々と、本質的に同じ沖縄の人々でしかない。

 他民族同士の混血は大脳生理学が証しているように、特殊な酵素の働きによって優秀な人材を派生しやすい。それこそが、歴史が証す「日本人」の優れた特性でもある。
 単に、現今のチープレイバー需要のためだけではなしに、国家民族の大計として人口問題、年齢層の不均衡の是正などのためにも、そしてこの社会を治安の面で刻一刻とむしばみつつあるあまりに多くの不法入国不法滞在外国人問題の解決のためにも、我々は歴史的にも通用しない妙な民族意識の迷妄を断って、国家社会の新しい繁栄のために積極的な移民政策の実行に踏み切るべき時にきていると思われる。

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